臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
ヘッドロックをしたまま弥生は話を続ける。
「イジリ甲斐のある面白い先生だったんだけど、奥さんの方が嫉妬しちゃってね。それで出入り禁止になった訳よ」
「や、やめろよ弥生! コーヒーがこぼれるって」
蓋を開けた缶コーヒーを持っている康平は、苦しい体勢になっていた。
「私、電車賃の分節約しようと思ってんだ。……康平ちゃん、コーヒー奢ってくれてアリガトね」
弥生は康平から缶コーヒーを奪い取った。彼女はヘッドロックをほどき、缶コーヒー飲みながらニヤリとした。
「まぁ、私の胸の感触を知ってんのは、康平ちゃんだけじゃないってことね」
「お前、その誤解を招くような言い方やめろよ。……それに、二人共ドン引きしてるじゃねぇか」
康平がたしなめると、弥生は亜樹と綾香の方へ視線を移す。
弥生と目が合った亜樹は困った顔をしながら笑った。綾香の方は笑いもせず、何か考えているような顔をしている。