臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)

「え、康平そんな事したの?」

 綾香は本気で訊いていた。


「ち、違うって! メシ食ってたら見えたんだよ。弥生にも『見えるぞ』って言っただろ?」

「あれ、そうだっけ? ……じゃあ綾香さん、また今度ね」



 図書館を出ていく弥生を見ながら綾香が口を開く。

「……今三時だからもう少し頑張ろうか」

「そうだな」


 その後、康平と綾香はテスト勉強を再開した。閉館までの二時間を、二人は会話も無しで勉強を進めていった。

 康平は、綾香が弥生の話で不機嫌になったのかと思っていた。



 夕方五時。閉館になった図書館を後にした二人は、駅まで一緒に歩いていく。

 綾香は電車には乗らないが、彼女の家は駅を越えた所にあるので歩く方向は一緒である。

 黙ったまま歩く綾香を見て、康平が言った。

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