臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
「大崎! テメェは追撃しないルールだろ!」

 梅田に怒鳴られた大崎は、『しまった』と言いたげな表情で大きく後ろへ下がる。


「今の大崎の技は、夏休みに内海達から習ってたんでしたね」

 梅田に歩み寄って飯島が言った。


「追撃もセットで練習してたようですし、咄嗟に出たんでしょうな」

 怒鳴ったばかりの梅田だったが、この時は少し笑っていた。飯島も口許がほころんでいる。


「追撃の早さは大崎の長所なんですがね。……でも、有馬はよく今の追撃をかわしましたね」

「飯島先生、有馬は相手のパンチはよく見えてるようですが、清水と同じ癖があるみたいですね」

 清水とは、今年のインターハイ予選で準優勝に終わった三年の清水の事である。


「本当ですか?」

 飯島はそう言って、梅田と同じ位置で有馬がパンチを打つ様子を凝視した。

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