臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
 左ジャブを当てた森谷は、自分からロープ際へと下がり始めている。

 下がる方向は、二人の先生がいる方のロープ際である。


 梅田と飯島は、お互いの顔を見ながら苦笑した。森谷が康平にパンチを打たせ、自分達に目をつぶる癖を見させようとしているのが分かったからだ。

 ただ、二人は別の意図も理解していた。


 梅田が口を開く。

「森谷のヤツは、自分の為の練習もするつもりなんでしょうな」

「アイツは接近戦が苦手ですからね」


 森谷はインターハイ予選と国体予選で、接近戦を得意とする同じ相手から続けて敗北している。

 彼は中間距離でのカウンターを得意としていたが、強引にロープへ詰められ、接近戦で持ち味を出せないまま判定負けを喫したのだ。

 その相手は、青葉台高校の三年生なので再び対戦する事はない。但し、近々行われる新人戦でも、同じ戦い方をする選手が出てくる可能性は高い。

< 156 / 273 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop