臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
 森谷は、大崎のように膝で早いリズムは取らない。いつでも得意のカウンターが打てるように、膝を柔らかくしている。

 フットワークも使うがピョンピョン跳ねるような派手さはなく、必要に応じてすり足で動く。

 森谷はこのラウンド、ロングレンジ(遠い間合い)で左ジャブか軽い右ストレートを放ち、すり足だが頻繁に位置を変えるようになった。

 その為康平は左フックを打つ間合いに近寄れず、ストレート系のみのパンチを出していた。



 二ラウンド目も同じ展開が続いている。

 その様子を見ていた飯島は梅田に話し掛ける。

「森谷の奴は高田のパンチに驚いたんでしょうね。ロープを背負わなくなりましたから」

「アレが使えればまだ接近戦でもやれるんですが、カウンターは禁止させてますからね」

「カウンターのアレって、左で打つアレですよね」

「そうですね。対インファイター(接近戦を主戦場にするボクサー)用に練習してきたアレです。……国体予選までには間に合わせたかったんですがね」

 頷きながら梅田は答えたが、七月の国体予選に間に合わなかったのが悔しかったのか、最後は口がヘの字になった。

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