臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)

「やっぱりスパーで食らわないとダメなんですかね」

 梅田はそう言って、苦虫を咬んだような顔になった。


「梅田先生、大崎は減量すればフライ級(五十二キロ以下)なんですが、新人戦は本人の希望でバンタム級(五十六キロ以下)で出ますよね。……有馬には酷ですが、大崎に右クロスをスパーで打たせたいんですよ」

「……バンタム級は、百七十センチ以上の選手が四人出てきますからね」

「大崎には有馬の顔ではなく、肩を狙って打たせます。……まぁアイツの場合は狙う余裕がないとは思うんですがね」

「夏休みが終わってから飯島先生と練習してたんですよね。二次的な効果を狙ってのものですか?」

「梅田先生にも分かってましたか。今の段階で右クロスを出すのはアノ効果を狙ったものです。倒す武器にさせるのは、しばらく後になりそうですがね」

「右クロスが有馬の顔面に当たっても仕方ないですよ。有馬は、いずれこのパンチを狙われるスタイルですからね」

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