臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
 開始のブザーが鳴ると、オーソドックススタイル(右構え)の森谷は、離れた距離から二種類の左ジャブを突く。

 右グローブを前にして構える健太に対して、外側から被せるように打つジャブと、内側から突き上げるジャブの事である。


 二週間前のスパーリングの時、手加減する事に慣れていない森谷は、パンチが当たる時も握らないで打っていた。

 慣れてきた彼は、先週の金曜日から手加減しながらも握って左ジャブを打つようになった。

 パンチが当たる時に握って打つようになれば、当然威力が増してくる。


 身長が百七十八センチの森谷に対して百七十センチの健太は、自分のパンチが届かない距離から近付く事が出来ず、左ジャブを当てられていく。


 大きく左後方へ下がった健太が構えを変えた。

 今まで前に出していた右前腕を顔の右側へピタリと付け、ガッチリとガードをしている。

 これを見た飯島が、梅田へ話し掛ける。

「梅田先生、この片桐の構えは先生が教えたんですか?」

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