臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
「いいえ、教えていませんが、奴なりに考えたんでしょうな」

 梅田はニヤリとして答える。


 リングの中で、森谷が外側から山なりの左ジャブを二発放つが、全て健太の右ガードに当たった。

 森谷が突き上げる内側からの左ジャブは、オーバーな動きながら、健太は頭の位置を変えて避ける。


「片桐なりに考えてますね。外側からのジャブは右ガードで防いでいるから、内側からのジャブを避ける事だけに集中すればいいわけですからね。……でも、上手くいきますかね?」

「上手くいかないでしょうな。……まぁ、何もしないで打たれ続けるよりはいいですからね」

 そう答えた梅田がリングを見ると、森谷の方に変化があった。


 森谷は緩急を付けた左ジャブを放ち始める。オーソドックススタイルの康平へ打っていたような、真っ直ぐな左ジャブである。

 今までの健太は右グローブを前に出して構えていた。それによって、森谷の左ジャブの軌道を遮っていたのだが、健太が右グローブを顔に付けた事で、森谷が左ジャブを打ち易くなったのだ。

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