臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
 康平が先生達のいる方へ視線を向けると、飯島は曇った表情になっていた。


「片桐、離れた所からもパンチを出さないと練習にならないぞ!」

 飯島のアドバイスに健太は頷きもせず、パンチを出さずに前進していく。


「お前、それは反則……!」

「飯島先生、ちょっと様子を見ませんか?」


 飯島が注意しようとするのを梅田が止めた。

 アマチュアボクシングの試合では、積極的にパンチを出さなければならない。消極的な選手はレフリーに注意され、繰り返せば減点になり、最後は失格負けになる。

 飯島はその事を指摘しようとしたのだ。


 無理矢理近付いた健太が、左ボディーブローを放とうと腰を落とした時、森谷は左フックを軽く打ちながら急に左へ位置を変えた。

 体勢の整っていない健太へ右ストレートを打とうとした森谷だったが、手加減しなければならない事もあって、パンチを途中で止めた。


 ここでラウンド終了のブザーが鳴った。

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