臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
 リングの中では、森谷がロープを背にしている。

 一ラウンド目の時、森谷はこの位置になると、早い足捌きですぐにリング中央へ戻っていた。

 だが、今はロープ際で健太を待ち構えている。


 左ボディーブローを打つ為に踏み込もうとした健太だったが、森谷が何か狙っているのを気付いたようで一旦躊躇した。

 だが、左ボディーブローだけを狙って他のパンチを一切打たなかった健太は、右足を大きく前に出して踏み込んだ。


 サウスポーの健太は、右半身を前にして斜(はす)に構えている。利き手の左グローブは、体の捻りを効かせて強いパンチが打てるように後ろ側にある。


 今時点で彼が習った左パンチは二種類あった。

 一つは左ストレートで、もう一つはアッパーとストレートを合わせたような左ボディーブローである。

 この二種類のパンチは、大きく打ち方が異なっていた。

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