臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
 梅田がカウントを数え終わった後に、健太がゆっくりと立ち上がる。


 その様子を見ていた梅田が健太に言った。

「……片桐、ヘッドギアとグローブを外して、そこの長椅子で横になってろ」

「……はい」


 返事をした健太に、飯島も話し掛ける。

「テンカウントで立てなかったんだから、長椅子まで手を貸すぞ」

「あっ、先生大丈夫です」


 そう言って健太はリングから出ると、スパーリングで使った保護具を、自分のタオルで綺麗に拭いて長椅子で横になった。


 飯島が森谷に小声で話す。

「お前のカウンターは、片桐の顎に当たったのか?」

「いいえ、額に当たったんですぐに立てると思ったですが……」

「……そうだよな」

 飯島は、長椅子で仰向けになっている健太を見て小さく溜め息をついた。

< 188 / 273 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop