臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
 突然、梅田が森谷に言った。

「お前、試合だったら今のカウンターじゃダウンも取れねぇぞ。狙うのは、デコじゃなくて顎なんだよ! あんなミエミエの左ボディー打ちに合わせられなかったら、試合じゃ使えねぇからな」

 彼の声は大きく、全員に聞こえていた。

 康平は長椅子の方をチラッと見る。横になっている健太は、左手の甲を両目の上に置いて黙っていた。



 練習が進み、三人の一年生達は補強のトレーニングに移った。長椅子に座って休んでいる健太へ飯島が言った。

「片桐は今日倒されたからな。家まで俺の車に乗せて行ってもいいぞ」

「……帰りは康平と一緒なんで大丈夫です」

「そうか。帰ったら早く寝るんだぞ」


 飯島が言い終わると、今度は梅田が口を開いた。

「練習の途中だが、一年生は全員ここに集まれ」

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