臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)

 二人がそこに行くと誰もいなかった。手洗い用の水道の蛇口が二つあった。


「始めようぜ」

 有馬は水道の蛇口を上向きにして水を出した。

 顔に水をかけている有馬を見て、康平も隣の水道の蛇口で同じように始めた。

 すると、有馬の所の水の出が悪くなったようで、有馬は更に蛇口を開く。


 二人はしばらく顔に水をかけていたが、制服に水がかからないようにしているのもあって、やりにくそうである。


「洗面器とかねぇとやりにくいな。……康平、そろそろ授業が始まるから止めようぜ」


 有馬が水を止めてそう言った。すると、康平が出している所の水の勢いが増して、彼の股間に水がかかってしまった。

 永山高校の制服は、紺のブレザーに灰色のズボンである。ネクタイは学年別に色が違っていて、康平達の学年は赤だ。


「……これじゃあ誤解されるな」

 有馬が康平のズボンを見て言った。

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