臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
「木槌で積み木みたいなのを叩くやつですよね」

 康平が答える。


「そうそう。その『達磨落とし』なんだが、上手くやれるコツは分かるか?」

「当たった時、すぐに引くと上手くいった気がします」

「よーし、いいぞ白鳥。これで俺も話易くなった。顔面を打つ時は引きが大事なんだ。ストレートを打つ場合は特にだ。……さっき言った『達磨落とし』なんだが、上手くいった時はすぐに引いてスコーンと抜けるような感覚なんだよ。パンチも同じように打って欲しいんだが……俺の言いたい事が分かるか?」


「…………」

 一年生達は顔を見合わせた。どうやら理解しきれていないようである。


「と、とにかくだ。強いボクサーになる為には、理屈が分からなくても練習をする素直さが大事なんだ。……効くパンチは力業(ちからわざ)じゃないって事を今から教えるからな。お前ら鏡の前に並べ」

 飯島はそう言って、強引に一年生達を鏡の前にいかせた。

 ある意味彼の力業であった。

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