臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
「そ、そんなんじゃないですよ。……でも、新しいパンチを教えて貰えるんですか?」
「そうだ。右アッパーなんだが、接近戦になった時はコレが結構使えるからな。教えるのは明日以降になるぞ」
飯島は、軽く右アッパーを打つポーズをしながら言った。
「僕も右アッパーを教えて貰えるんですよね?」
隣で柔軟体操をしている康平がそう訊くと、飯島は考えているような表情になった。
「……いや、今回教えるのは白鳥だけだ。高田に右アッパーを教えるのは、今まで習ったパンチを、スパーリングでもきちんと打てるようになってからだな」
「えっ?」
意外にも、驚きの声を挙げたのは白鳥だった。
「どうした白鳥? 何もお前が驚く事はないだろ」
「……そ、そうですね」
「高田はそれでいいだろ?」
「はい」
康平は少し残念な気持ちだったが、目をつぶってパンチを打ってしまう癖があるのもあってか、何も訊かずに返事をした。