臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
白鳥が続けて話す。
「……で、でも先生は何も言わないんだよな」
「……言わないのも何か理由があるんじゃないのかな? 先生達って、何かと理由付けするしさ」
「そ、そうかもしんないね。こ、康平に右アッパーを教えないのも、き、きっと理由があるんだよ」
康平は、白鳥が彼なりに自分を励ましているように思えた。
「白鳥、アンガトな。俺はまだ、新しいパンチを習うのは早いよ。シャドー(ボクシング)をやってて、気になる事もあっからさ」
「康平は有馬と違うんだな。あ、有馬は、『早く新しいパンチを習いたい』って、いつもボヤいてるよ」
「有馬は、身体能力が高そうだもんな。……アイツのボヤく姿が目に浮かぶよ」
康平がそう言うと、白鳥は笑った。笑う事に慣れていないのか、苦笑いでもするような不自然な笑いである。
二人が駅の改札口に着いた時、白鳥が再び口を開いた。