臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
 だが石山は、次のラウンドも同じ動作を繰り返している。

 三ラウンド目は動きを少し早め、左フック及び左アッパーにダッキング(屈むような防御)や右のパンチが加わった。

 ラウンドが進むにつれて、石山は得意の左パンチに肉付けするような形で動作を増やしていく。

 ただ彼は、シャドーボクシングの最中一切鏡を見ていない。



 長身の三年生、兵藤の利き腕は右である。今までずっと剣道をやってきた彼は、剣道のように右足を前に出す方が戦い易いという理由から、右利きであるにもかかわらずサウスポー構えになっていた。

 当然彼の利き腕を振るう右フックは強く、試合でもそのパンチで相手を倒すシーンが多い。

 だが最初の二ラウンドは、鏡を見ながら左ストレートだけを反復していた。

 それもパンチと呼べるような代物ではなく、ユックリと左を伸ばす。伸びきった所で手の動きを止め、左足から腰そして肩を右へ何度も捻った。

 まるで、ストレッチでも行っているようである。

< 219 / 273 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop