臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
 一年生達は、飯島が言った「二度攻め」の事を訊きたくなった。

 しかし、彼が大崎の指導に集中しているのもあって、一年生達は質問せずに黙っていた。


 リング上の二人は階級こそ一階級違うが、減量無しでバンタム級(五十六キロ以下)の試合に出場する大崎と、フライ級(五十二キロ以下)だったが引退して減量もしていない石山は、現在同じ位の体重である。

 強力な左パンチを軸にして戦う石山に対して、大崎は回転の速いコンビネーションブローで対抗するが、石山のパンチングパワーが圧倒している場面が多い。


 三ラウンド終了間際、接近戦から大崎が大きくバックステップをした。

 石山が、すぐに前へ突き出すような左フックで飛び込んでいく。このパンチは大崎の顔面に直撃し、彼は大きく仰け反った。

 ダウンを宣告しようとした飯島だったが、同時に終了のブザーが鳴った。


「大崎、いくら位置を変えるっても、接近戦から真っ直ぐ下がっちゃ駄目なんだよ。相手は踏み込んで打つだけでいいんだからな」

 飯島の話に頷きながら返事をした大崎は、急いでグローブと保護具を外してタオルで拭いていた。

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