臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
「清水は約五ヶ月ぶりのスパーだから、まだ勘が戻ってないんだろうな」

 飯島が呟く。


「いや、相沢の奴も結構巧くなってますね。何発かボディーへ打って、伏線張ってからあの右ですよね。フェイントも絶妙だし、俺でも引っ掛かってますよ」

 石山が言い終わった時、ラウンド終了のブザーが鳴った。


 有馬が飯島に訊いた。

「相沢先輩の構えって、ピーカブースタイルなんですか?」

「口の前に両グローブがあるからな。相沢に言わせると違うらしいぞ」

「マイク・タイソンを真似た構えじゃないんですか?」

「俺も思ったんだがな。相沢本人は、ドナルド・カリーと具志堅を併せたスタイルだって言ってるよ」

「具志堅は分かりますが、ドナルド・カリーって誰なんですか? 聞いたことないんですが……」

「具志堅もそうだが、カリーもお前らが生まれる前に戦っていた選手だよ。プロでは二階級制覇してるんだが、アマチュアでの戦績はとんでもないぞ」

< 231 / 273 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop