臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
「何勝何敗なんですか?」

「聞いて驚くなよ。四百勝五敗だ」

「四百勝四敗ですよ先生」

 飯島が答えた時、青コーナー側で立ったまま休んでいる相沢が訂正した。


「相沢、テメェはコンビネーションの組み立てに集中すんだよ」

 梅田が、ヘッドギアを被っている相沢の頭を平手で軽く叩いた。


 石山が苦笑した。

「相沢はボクシングオタクだからな。……ところで先生、四百勝四敗って凄いですね。オリンピックで金メダルは取ったんですよね?」

「確かオリンピックに出ていない筈だ。カリーはアメリカの選手で、その当時はアメリカとソ連が冷戦状態だったんだよ。そして開催地がソ連の首都のモスクワで、アメリカは出場をボイコットしたんだ」


「先生、授業で習ったんですがソ連て今のロシアですよね?」

 白鳥に訊かれた飯島は複雑な表情になった。

「……そうか、お前達が生まれる前に変わったからな。授業で聞かなければ分からないもんな」

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