臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
「そうか? その割に、お前が褒められる場面はあまり無かった気がすんだがな」
飯島が笑いながら突っ込みを入れると、清水は真顔になった。
「今日は、相沢のいいパンチを二発も貰っちゃいましたからね。……あそこで左フックのフェイントから右ストレートは、俺じゃなくても食らってますよ」
「俺も国体予選前に、相沢からあのパターンで貰ったんだよな」
「その前って、相沢は誰かに倒されたっけか?」
「たしか一週間位前に石山から倒されてんだよ」
清水が石山に訊くと、飯島が隣から答えた。
飯島は一年生達に向けて言った。
「相沢はなぁ、体重が六十ちょっとだったから、三年生全員とスパーする機会が多かったんだ」
「スパーで倒される回数も多くてな。俺と石山と兵藤から二回ずつ倒されてんだよ」
「ただ相沢は、倒される度にバージョンアップしてくるんだよ。次の日から、シャドーボクシングを十ラウンド以上もずっと繰り返してな」
清水に続いて石山がそう言った時、兵藤と森谷のスパーリングが始まった。