臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
 清水が話を続けた。

「ただでは起きないって言うのは、相沢のような奴を言うんだろうな。……今日のスパーでも、パンチの打ち出しが一層分かりにくくなってたよ」

「アイツのパンチは特殊だからな。普段は面白い奴だが、相沢は二年で一番の努力家だから練習する姿勢は見習った方がいいぞ」

 前キャプテン、石山の話に一年生全員が返事をした。



 リング上ではスパーリングが続いている。

 サウスポー構えの兵藤は、前に出している手で放つ右フックが強力である。いつこのパンチを出そうか隙を伺っている様子だ。

 対する森谷は、時折相手を誘うような軽いパンチを放ちながら、得意のカウンターを狙っている。


 共に百八十センチ近い長身で間合いが同じようである。

 二人は大きく足を使わずに、一歩踏み込めばストレートが届きそうな距離で駆け引きを行っているせいか、緊迫した空気が漂う。

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