臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
 飯島は、普段とミットの受け方が明らかに違っていた。

 いつもなら、生徒のパンチが当たる瞬間にミットでグッと押さえ付ける。

 そのおかげでパンチを打った方にも当たった感触が残り、「パーン」とミット特有の乾いたような音が高く出ていた。


 だがこの時の飯島は、パンチが当たる瞬間にミットで押さえ付ける事をしなかった。

 彼が両手首に力を入れないでパンチを受けるので、ミットはパンチの方向に流されていく。


 バスバスッ!

 ミットから出る音が湿っている。


 三度同じ音を出した康平に飯島が言った。

「高田はまだ腕の力でパンチを出してるぞ。だからまだ押すパンチなんだ。威力の事は考えないで、グローブを放り出すような感じで打ってみろ」


 返事をした康平が、何度目かのワンツーストレートを打った。

 パンパン!

 ミットから乾いたような音が出た。

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