臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
「清水、森谷は右フックを貰っちまったぞ」

 石山がニヤッと笑った。


 二ラウンド目終了のブザーが鳴った時、清水はリングに向かって叫んだ。

「森谷、右フックだけは貰うんじゃねぇぞ」

「……あっ、はい」

 森谷は、目をパチクリさせて返事をした。


 飯島が笑いながら言った。

「せっかく清水が褒めたんだけどな。……ただ、今の兵藤の右フックは、いきなり飛び込みながら打ってたぞ」

「マジッスか? サウスポーからそれを打つって怖いですよね。……石山もよく左フックで飛び込んでたけど、サウスポーには打たなかったよな?」

「打たなかったと言うより打てなかったよ。左フックで飛び込んだ時、相手が左ストレートを出せば、ダイレクトでカウンターになるからさ」

 石山は頷きながら言った。



 三ラウンド目が始まると、兵藤の動きに変化があった。

< 245 / 273 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop