臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
 リングから出る森谷に梅田が言った。

「森谷、左ジャブで相手が止まらないんだったら右も出すんだ。サウスポー相手には特にだぞ」

 森谷は返事をして、すぐにサンドバッグ打ちの準備に取り掛かる。


 兵藤は一年生達のいる方へ歩いていった。


 清水が話し掛ける。

「お前、いつになく強引だったな?」

「森谷は右を出す気配が無かったからさ。……あいつの悪い癖なんだよな。極端にミスブロー(かわされるパンチ)を嫌って手数がまだ少ないんだよ」

「だから飛び込んで右フックを打ったんだな?」

「まぁな。……それはそうと俺はホッとしたよ。二ラウンド目までは互角だったからな。俺だけ後輩にやられたんじゃ格好付かないからさ」


 飯島が三人に言った。

「お前ら、喋る余裕あんだったら可愛い後輩達にアドバイスしてやれよ。お前らを呼んだのは、その為でもあるんだからな」

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