臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
 有馬の全身が小さくブレる。左膝を使ってフェイントを行ったようである。


 有馬がもう一度同じフェイントを行った時、大崎が反応した。前足へシフトウェートして右肩が回り始めている。

 フェイントに気付いた大崎は、出し始めた右パンチを途中で止めた。


 リングの外では二人の先生がその様子を見ていた。飯島が口を開く。

「大崎の奴、有馬のフェイントに引っ掛かったようですね。あれじゃあ、右クロスを狙ってるのがバレバレなんだよな。……梅田先生は有馬にフェイントを教えたんですか?」

「いいえ、まだ教えてないんですよ。たぶん二・三年のスパーを見て真似をしたんでしょうな」

「有馬は器用そうですし、他にもフェイントを教えてやったらどうですか?」

「飯島先生、私は今の奴に何も教えないつもりなんですよ」


 梅田がそう言った時、有馬が右ストレートから打ち出していた。

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