臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
 飯島が梅田に言った。

「大崎は右クロスを狙うと、極端な待ちの姿勢になってしまうんですよね」

「大崎に限らず、右クロスを習うと誰でも最初は手が出なくなりますよ」

「……それはあるんですけどね。新人戦まであと十日を切ってるんですけど、バレバレの右クロスが試合で通用するといいんですが……」

 飯島は浮かない表情になっていた。


「……私も大崎に右クロスを教えたのは賛成ですよ。立花(高校)のバンタム級には荒川がいますからね」

「そうなんですよ。奴は長身のストレートパンチャー(ストレートが強力なボクサー)で足も使えるから、右クロスを打たせないと、ロングレンジ(離れた間合い)だと分が悪いんですよね」


「飯島、試したい事があるんですが……ちょっといいですか?」

 梅田はそう言って話を続けた。


「……それだったら大崎に出来ると思いますよ」

 飯島が大きく頷いた時、開始のブザーが鳴った。

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