臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
 有馬はカウンターを狙われているのもあって、不用意に左ジャブは出さず、フェイントの頻度が多くなった。

 大崎は、そのフェイントに対しても右のオーバーハンドを繰り出していく。


 ラウンド開始から三十秒が経った時、飯島が大声で指示を出した。

「大崎、切り替えろ!」


 すると大崎は、左斜め前へ踏み込みながら二発の左ジャブで距離を詰め、右アッパーをボディーに放つ。

 有馬のやや右側から打ったアッパーは、彼のボディーの真ん中(ストマック=胃袋)に直撃した。

 ボディーが効いたのか、有馬は背中を丸めて前屈みになった。

 その体勢から左フックを強振する有馬だったが、大崎は低い姿勢で右側へ移動した為、そのパンチは彼の頭上を通り過ぎていく。

 右へ泳いだ格好になった有馬の顔面へ、大崎の右から左、そして右のショートストレートが立て続けにヒットした。

 有馬の顔が三度上向きになり、梅田はダウンを宣告した。

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