臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
 ベジッ!

 がら空きになった有馬の右脇腹へ、大崎の鋭い左ボディーブローが突き刺さる。

 有馬の体は右へくの字に曲がり、動きが完全に止まった。


「ストーォップ!」

 梅田の声が狭い練習場に響き、カウントが入る。

 有馬はカウントファイブでファイティングポーズをとったが、彼の表情は苦痛に歪んでいる。


 カウントをエイトまで数えた梅田は、有馬に訊いた。

「有馬、続けられるな? 続けられるんだったら、効いたような顔をするんじゃねぇぞ」


 無理矢理表情を戻した有馬は、小さく頷いた。


「続けるぞ」

 梅田はそう言ってスパーリングを続行させた。だが、大崎はためらっていた。そして彼は梅田に質問した。

「有馬はこのラウンド二度目のダウンなんですが、奴は大丈夫なんですか?」


 高校ボクシングの試合では、同一ラウンドに二度ダウンを取られるとRSC(レフリー・ストップ・コンテスト)で負けになる。


「今はスパーリングだからいいんだよ。……いいから続けろ」


 梅田に言われた大崎は、リング中央に歩いていく。

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