臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
 有馬は反発するように質問をしたが、梅田は怒鳴らずに言った。

「お前が左ジャブを打たなかったらどうなったか言ってみろ?」

「……簡単に接近されてダウンを取られました」

「体重の割に背が高いお前は、接近戦だと分が悪い。だったら自分が何をするか分かるな?」

「……左ジャブで近付かせないようにする事は分かりました」

 そう答えた有馬は、まだ納得していない顔をしている。

 梅田はそれを察して有馬に言った。

「納得いかないんだったら今のうちにトコトン話せ」

「…………」


 有馬はすぐに言おうとせずに黙っていた。上手く言えないのか、頭の中で整理しているようである。


 ラウンド開始のブザーが鳴る。


「大崎、俺がいいと言うまで軽く動いてろ」

 梅田はそう言うと、タイマーの所へ行ってそれをストップした。


 しばらく黙っていた有馬がようやく口を開いた。

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