臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)

「先生、相手が右クロスを狙っても、左ジャブを出さなきゃいけない事は分かりました。……でも清水先輩のように、頭の位置を変えたりしながら打てば、右クロスを貰わないように出来るんじゃないですか?」

「お前はそれをやれるのか?」

「……やれるような気はします」


 梅田は少し考えていたが、静かな口調で言った。

「だったらこのラウンドは、お前が好きなようにやってみろ」



 スパーリングが再開された。

 有馬が、左下へ頭を下げながら下から左ジャブを突き上げた。

 今度は頭を右側へ少し倒しながら、上から下にジャブを打ち下ろす。

 有馬がぎこちない動きで打ったからであろうか、大崎は難なくかわした。


 梅田の隣で飯島が言った。

「有馬は清水の左ジャブを真似てるんでしょうね。梅田先生から見てどんな感じですか?」

「悪くはないと思います。少し修正は必要ですが、しばらくすれば奴は上手く打てるでしょうな。何気に有馬は身体能力が高いですからね。……ただ、今の奴には別の事を身に付けて欲しいんですよ」

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