臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
「……身に付ける事はあれですか?」

「そうですね。……ただこれは、アウトボクサー(離れて戦うボクサー)だった飯島先生の方が私より上手く教えられそうなんですけどね」

 梅田は、スパーリングを見ながら笑って言った。


「……いや、今の有馬は梅田先生じゃないと駄目ですよ。アウトボクサーは、私も含めて感覚的に戦う事が多いかも知れませんが、特に最初は梅田先生のような理論的な教えが必要ですからね」


 リング上では、接近戦で有馬が大崎に打ち込まれていた。

 梅田が言った。

「ストップだ有馬。今日のスパーはこれで終わりだ」

「まだ出来ます。頭の位置を変えながら打つ左ジャブがいい感じなんです」

 有馬はガードを高く上げて構え直す。


「お前がよくても大崎の練習にならないんだよ。大崎は大事な試合前のスパーなんだからな」

「お前が右へ体を倒しながら打つ左ジャブは、今の打ち方だと腰を痛めるぞ」


 梅田に続いて飯島がそう言うと、有馬は渋々リングから出ていった。

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