臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
 練習が終わり、有馬が帰ろうとした時、梅田と飯島は彼を呼んだ。

 梅田が口を開く。

「お前が頭の位置を変えながら打っていた左ジャブは、俺がいいと言うまで打つんじゃねぇぞ」

「……大崎先輩の練習にならないからですか?」

「それもあるが、お前には身に付けて欲しいものがあるんだよ」

「それは何ですか?」

 有馬は興味深げな顔をした。


「左ジャブにカウンターを合わせられた時の対処だ」

「右クロスですか?」

「右クロスとは限らん。リターンジャブや、飛び込んでくる左フックなど色々あるんだよ」

「……確か左ジャブは、カウンターを狙われ易いんですよね」

「誰から聞いたんだ?」

「夏休みの時に、内海さんと山本さんからです」

「あいつら、どこまで教えたんですかね」


 飯島がそう言うと、二人の先生は顔を見合わせて苦笑した。

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