臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
 梅田が訊いた。

「お前はどこまで教わったんだ?」

「ジャブは狙わないで打てと教わりました」

「その先は聞いて無いんだな?」


 もう一度訊かれた有馬は梅田から視線を逸らし、思い出しているような顔になった。

「……ジャブはポイントにならない事も聞きました」

「あいつら、そんな事まで言ったのか?」

 飯島の声が大きくなると、有馬は慌てて付け加えた。

「で、でもジャブは大事だとも言ってたと思います」


「あいつらの言ってる通りなんだが、その先があるんだよ」

「元々あいつらに教えたのは俺達なんだからな」

 梅田に続いて飯島が笑って言った。飯島は更に話を続けた。

「左ジャブはカウンターを狙われ易いんだが、ちゃんとした距離で相手をしっかりと見て打つんだったら、カウンターは防げるんだよ」

「そうなんですか?」

「お前のような長身の場合なんだがな」

 有馬は体重が五十一キロだが、身長は百七十一センチもあった。

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