臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
「しっかり相手を見るのは分かるんですが、ちゃんとした距離はどんな間合いなんですか?」

「長身のお前が一歩踏み込んで届く距離だよ。……この距離だったら相手のパンチも見えるからな」

 有馬の質問に飯島が答えると、今度は梅田が言った。

「お前にはジャバーになって欲しいんだよ」


 ジャバーを初めて聞いた有馬は不思議そうな顔になった。それに気付いて梅田は付け加えた。

「ジャバーを手っ取り早く言えば、ジャブで試合をコントロールできるボクサーの事だ」


 梅田は更に話を続けた。

「お前がジャバーになる為には段階があるんだよ」

「……フェイントも駄目ですか?」

「当たり前だ! ……フェイントはもう少ししたら教えるつもりなんだが、今は肩の回転を意識した強い左ジャブを徹底しろ。相手を下がらせるような強いジャブだ。……だから今は余計な事をするんじゃねぇぞ」


 梅田から怒られるように言われている有馬だったが、彼は何故か嬉しそうに聞いていた。

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