臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
「はい。先生がミットで合わせてくれないので、手応えが無かったです」
答えた健太に飯島が再び話し出した。
「今回のミットは、軽い物を打たせるイメージでワザと受け流したんだよ」
「軽い物……ですか?」
「まぁ頭の事なんだがな。……まさか首を切る訳にはいかないから量った事は無いが、頭の重さが三十キロの人間は中々いないと思うぞ」
「頭は軽いって事ですよね?」
確認した有馬に飯島が答える。
「俺の言い方が悪かったな。……頭は軽いと言うより、首の骨を軸にして揺れやすいんだよ。特に首に力を入れないとそうなる。そして、激しく揺れたら脳震盪を起こして倒れるって話さ」
「だったら、ずっと首に力を入れていれば揺れないんじゃないんですか?」
「有馬、そりゃ無理な話だよ。首に力を入れたままだったら、体も力んでしまって戦えないぞ」
「あ、そうですね」
納得して頷いた有馬だったが、彼は思い出したような表情になった。