臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
オーソドックススタイル(右構え)の飯島は、後ろにある右の太股から腰、そして右肩をキュっと捻る。
「この勢いで自分のグローブを弾き出すんだ。やってみろ」
四人は飯島を真似てパンチを打ち始める。
飯島は、それを見ながらアドバイスをした。
「ストレートは打ち始めが肝腎なんだ。太股から腰、肩の回転にもっと勢いをつけろ。そして腕の力は抜けるだけ抜くんだぞ」
三ラウンド目、ストレートだけを打ち続ける一年生達に飯島が言った。
「腕が伸び切る瞬間に、手首を下にクイっと曲げてみろ」
ラウンド終了のブザーが鳴り、健太が感想を漏らした。
「先生。手首をクイっと曲げると、パンチって自然に戻るんですね」
飯島の口許がほころぶ。
「お、いい所に気が付いたな。腕の力を抜いて打ったストレートは特に戻り易いのさ。そして、自然に引いているパンチは顔面によく効く。……今日はコツだけ掴めばいいから、これから意識して身に付ける事だ」