臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
「先生、ちょっといいですか?」

 有馬が一歩前に出た。

「ん、有馬どうしたんだ?」

「効くパンチの事は分かったんですが、どうして前から教えてくれなかったんですか? ……もっと前から教えてくれていたら、今時点で効くパンチが打てると思うんですけど……」

「……物事には順序ってもんがあるんだ。今までのお前達は、六対四のバランスを始めとしてフォームを固める事が大事だったんだよ。お前達に効くパンチを最初に教えたら、そっちばかりを練習しちゃうだろ。地味なフォームチェックをオザナリにしてな」

「そ、そうかも知れないです」有馬は渋々頷いた。

「フォーム作りは、何発パンチを打とうがディフェンスをしようが、バランスが崩れないように、最優先で身に付けなければいけない事だったんだよ。……ゲームで言えば、壊れない武器を手に入れる為さ」


「先生、ゲームやるんですか?」健太が訊いた。

「昔はよくやったよ。今は息子の相手をしてるんだが……。おっと、話が脱線しちゃうと練習が進まなくなるから本題に戻るぞ。ところで……」


「先生。今の僕達の武器ははどんなレベルなんですか?」

 康平が話に割り込む。最近はあまりやっていないが、元来彼もゲーム好きである。

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