臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
 康平は左フックを振り抜いたポーズをした。左肩で左顎を隠すようにし、右腕は窮屈な程絞って右顎とボディーをガードする。

 プロのKOパンチの中でも、七割近くがこのパンチだと先生に教えられているので、入念にフォームチェックをしていた。

 その時、康平が見ているマジックミラーに女の子がフッと映った。

 康平は咄嗟に振り抜いた左腕を右腕で抱えるようにして、あたかも左肩の筋肉を伸ばすストレッチングをしているフリをする。

 女の子は「BarBarくりはら」の前を通り過ぎずに路上で立ち止まり、康平の方をジッと見ていた。


「あれ、アンタ康平ちゃんじゃない?」

 上下がピンクのジャージで、黒髪ショートカットの女の子は、そう言って康平に近付いていく。

 康平は、誰だか分からず悩んでいた。

「康平ちゃん私だよ。昔はよくアンタを苛めてたじゃん」

 やや吊り上がった眉にタレ目気味の顔を見て、康平は思い出した。

「お前弥生(やよい)か? 髪型変わったから分かんなかったよ」

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