臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
「ねぇ、この問題解いてみてよ。私、サッパリ分かんなくてさ」

 弥生が開いたのは因数分解の頁だった。

 康平も、数学の中で因数分解は特に苦手である。彼は、見栄を張らずに正直に言った。

「ワリィな。俺も数学は苦手だから教えらんねぇよ」

「そう言えば、康平ちゃんは算数苦手だったもんね。……ところで今日は一人で勉強?」

「いや、友達が後で来るよ。今は電車に乗ってる頃かな」

「この前言ってた女の子?」

「まぁね。今日は二人来るよ」


 弥生が肘で突っつく。

「二人も来るんだ。電車賃まで使わせてぇ」

「い、いつも行く図書館が休みなんだよ」


 弥生はシャーペンを回しながら訊いた。

「……ねぇ、ボクシングって痩せるの?」


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