臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
「私を忘れるなんていい度胸ね」

 女の子はツカツカと康平に近寄り、右のローキックをかます。

「イテ! 何すんだよ」

 康平と話をしている女の子は栗原弥生(くりはらやよい)といい、康平の一つ年下の中学三年生である。小さい頃から空手を習っていた。ローキックには威力があり、康平は本気で痛がっていた。

 気が短い彼女は喧嘩っ早く、幼稚園と小学校二年の時に康平は二回ずつ泣かされている。

 登下校が同じ班だったので、小学生の時は一緒に遊ぶ時もあった。

 中学生になると、彼女はガラの悪いグループとつるむようになり、茶髪のロングヘアーにした弥生は率先して問題を起こしていた。

 中学時代の康平はやや真面目な方だったので、彼女と話す機会は殆ど無く、これが四年ぶりの会話となる。

 久しぶりに話すのが懐かしいのか、弥生は笑顔で話す。

「うちのひい祖父ちゃんから『変な少年が営業妨害してるから、とっちめてくれ』って頼まれたんだけど、康平ちゃんだったんだね」

「この時間に営業妨害って、ありえなくね?」

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