臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
 ずっと返し技の練習をしていたので、言い返そうとした有馬だったが、梅田は間髪入れずに話を続ける。

「理由は後で全員に話すが、返し技は絶対に狙うんじゃねぇぞ。今のお前は、大崎のパンチを食らっても左ジャブを打ち続けろ」

 梅田はそう言って、立ったまま休憩している有馬の尻を叩いた。


 二ラウンド目に入って、有馬は根気強く左ジャブを放つ。

 だが、ことごとく避けられ、逆に大崎からパンチを食らう有馬に、梅田からアドバイスがあった。

「左ジャブが伸びないぞ。ミットの時みたいに溜めを作るんだよ」


 その声を聞いた有馬は、右グローブを口から二十センチ程前に出し、左の肩と肘をグッと引いた構えになった。

 そして、右グローブを引く反動で左ジャブを放つ。

 これまでと違い、有馬の左ジャブが勢いよく伸びていた。

 だが、そのパンチも空を切り、大崎の軽く打った右ストレートが有馬の顔面を直撃した。

< 56 / 273 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop