臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
「まぁね。うちのひい祖父ちゃんはモウロクしてっからさ。……ところで康平ちゃんは、こんな所で何やってたのよ?」

「み、見りゃ分かるだろ! ス、ストレッチだよ」

 康平は、右に伸ばした左腕を右腕で抱えるような仕草をした。

「ふーん……ストレッチをする為に、わざわざうちの店の前まで来たんだ」

「わ、悪いかよ。……でも弥生ンチってアッチじゃなかったっけ?」

 康平は、北東の方角を指差して言った。それは、彼の家の方でもあった。弥生の家は、康平の家から歩いて百メートル程離れている。

「ここは年の離れた兄貴の店なんだ。ネーミングは超ダサだけどね。……ところで本当にストレッチの為だけでここにいるのかな? 隠すと為にならないよ」

 弥生は、再びローキックを放つ構えをした。


「ま、待て! い、今正直に言うからその構えを止めろ」

「よーし、白状する気になったのね」

 両手を前に出しながら後ずさりして話す康平に、弥生はニヤリとして構えを解いた。
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