臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
 開始から十秒程経つ。

 どちらもパンチらしいパンチこそ打っていないが、二人の前の手はよく動いていた。

 健太が右ジャブを打とうとすると森谷は左グローブで防ぎ、逆に森谷の左ジャブを健太は右グローブで遮った。


 サウスポー対オーソドックスが向き合うと、両者の前の手が同じ側になる。すると、お互いの前の手が邪魔でジャブが打ちにくくなるのだ。

 二人共、前の手を少し伸ばして構えているので尚更である。


 お互いに牽制するような形で更に十秒経った時、先に健太が仕掛けた。

 探るように伸ばした森谷の左腕に自らの右腕を絡め、それをグッと下に落としながら左ストレートを打った。

 森谷は落とされた左腕を広げ、跳ぶように後ろへ下がりながら左フックを放つ。

 どちらも空振りに終わったが、思い切りのいい健太の左ストレートと森谷の鋭い左フックで、練習場に緊張感が漂う。

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