臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
 息は荒れていないが、冴えない表情の森谷に梅田が話し掛ける。

「カウンターが打てないと戦えないようじゃ、上に行けねぇぞ。……最近練習しているアレを使ってみろ」

「一年生相手にアレを使っていいんですか?」

 森谷にとって梅田の指示が意外だったようで、彼は急に梅田の方へ顔を向けて言った。


「片桐にとっても参考になるし、ダメージ自体も少ないだろうから使っていいぞ。……それに、お前の階級にはサウスポーが二人いるからな。今から試すんだ」

「はい、分かりました」

 森谷の表情が心なしか明るくなった。


 ラウンド開始のブザーが鳴った。

 二人がリング中央へ寄って対峙した時、森谷の構えが再び変わった。

 変わったのは前にある左グローブの位置で、健太の右グローブよりも外側にあった。

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