臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
 スパーリングは再開し、二人は対峙する。

 梅田から叱責されて戸惑ったのか、森谷は様子を見ていた。

 そのおかげか、立て続けにジャブを食らって怯んだ健太は、冷静に相手を見れるようになった。


 健太から森谷を見た時、相手の左グローブは自分の右ガードより外にあった。

 右手で森谷の左を遮っていない。だがそれは、森谷の左グローブも自分の右パンチを邪魔していない事を意味する。


 健太が仕掛ける。

 右ジャブを二発放ちながら前に出た。相変わらず健太は踏み込みがいいようで、一挙に距離が縮まった。

 健太がグッと腰を落とした時、森谷は蟹歩きでスーっと右後方へ逃げる。

 反復横飛びで右一方へ動いていくような足捌きなのだが、教本でも正式な名称は無く、永山高校では「蟹歩き」と教えていた。

< 78 / 273 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop