臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
 健太が前に出ると、森谷はフットワークで距離を取った。

 手加減する事に馴れていない森谷は、まだ躊躇しているようである。

 それを察した健太も遠慮勝ちになり、二人はパンチが出なくなった。


「片桐、お前は遠慮しなくていいんだ! 森谷は握らないで打て」

 梅田が怒るような口調でアドバイスをした。


 リングの中にいる二人は、お互い相手を見ながら小さく頷いた。

 このラウンド、残り時間は三十秒を切っている。


 森谷の外側からのジャブが健太の顔にヒットした。握らないで打っている為か、健太に怯む様子はない。

 健太が左ストレートから右フックのコンビネーションで反撃する。森谷はスウェーバック(仰け反るような防御)で左ストレートをかわし、右フックを左へ移動しながらのウィービング(潜るような防御)で空転させた。

 健太の右側に位置する森谷は、再び外側からのジャブを放つ。

< 79 / 273 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop