臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
返し技を狙うな
 練習が終わった時、有馬が梅田に質問した。

「先生、スパーリングの時返し技を狙うなって言われたんですけど、どうしてですか? 一ヶ月間ずっと練習してたんですが……」

「……有馬、ちょっと待ってろ」

 梅田はそう言うと一年生全員を呼んだ。


「お前ら一年生はこれから週二回スパーリングをするんだが、返し技を狙うのはやめろ」

 梅田の話に一年生達は怪訝な表情になった。

 返し技とは相手のパンチをディフェンスし、反撃する技の事である。康平達は夏休みの終わり頃から習い始め、反復練習を繰り返していた。


「……狙うなって事は、練習もしないって事ですか?」

 康平が訊くと梅田が答えた。

「返し技は今まで以上に反復練習をしろ。だがスパーリングでは狙うな」

 四人はますます疑心暗鬼になった。

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