君とお絵かき
お母さんは悲しげな笑顔を浮かべている。
勿論、私が盗み聞きをしていた事をお母さんは知らない。
頭の中では否定しているが、勝手に考えてしまう。
お母さんが話そうとしている事は············
「何?」
私は、また精一杯の笑顔を作り、ベットの上でお母さんに問いかける。
分かっているのに聞くのは嫌だ。
でも、もしかしたら、聞き間違いかも知れない。
そういう思いを込めて、聞いた。
「あのね、手術·····終わったよね。」
お母さんは、ゆっくり、ゆっくり、話を紡いでいく。
「···うん。」
この笑顔の裏の悲しい表情を悟られていないか心配だった。
「それでね。」
「うん。」
普段なら、早く要件を言ってよ!と思う所だったが、今の私には落ち着いてそれを聞く余裕があるのかもしれない。
「言ってなかったけど·········手術が、もう一つあるの。」
「····へぇ。」
予想通りの話だった。
やっぱり、冗談なんかじゃ、ない。
「どんな、手術なの?」
今の笑顔は、多分、引きつっていると思う。
「心配しなくて、いいのよ·········?」
やはり顔が固まっていたようで、お母さんがとても悲しそうな笑顔でこちらを見てくる。
「やっ、全然、そんな事ないよ·····」
そうは言ったが、今にもその声は消え入りそうだった。
「それでね、その手術はね。」
「·········。」
これ以上いちいち応答していたら私の心がもたない。
「───また、リスクがあるの。」
全身麻痺·········。
...
手術のリスク。
そんなの、全身麻痺しかない。
私はこの耳で、聞いてしまったのだ。
「──あのね、全身麻痺に、なるの。」
やっぱりだ。
「成功率·········また、高いよね?」
成功率は低いとか、聞こえてない。そんな事聞いてないよ。
「成功率···は·········。」
お母さんが、言葉を濁す。
低いんだな·······。成功率。
こういう風に物事をさっさと考えてしまう自分の脳が嫌いだ。大嫌い。
「······いいよ、成功率。聞きたくないし。」
だから、見え見えの嘘を付いた。
「·······そ、そう。そうね。分かったわ。お母さんは外に出てるね。」
お母さんも見え見えだ。
隠そうとしてるのが見えてる。
何を?─────
────────涙を。