Kiss of a shock ~涙と~
万理香は小さく「嘘」と呟いた。


「嘘なんか言わないさ。君は処女だからって言われてね、契約金は結構良い額を支払ったよ。」


目の前が暗くなって、万理香は電話を切った。


嘘だ、ともう一度呟いた。


そんなわけがないもの。


社長は・・・。


昨日、電話した時だって、そんなこと一言も言っていなかった。


無理しなくて良い、もう良いんだって、慰めてくれて・・・。


ぐっさりと胸にナイフが突き刺さったみたいだ。


嘘だと言い切れないのは、父の言っていた言葉が甦ってきたから。


もう忘れていた。


絨毯の上で眠りに付いたフリをしている万理香の隣で、泣いている父が言っていた言葉―。


『許さない』


「許さない・・・。」


万理香は記憶の中に甦ってきた父と同じ言葉を繰り返した。


「許さない、尾山・・・。」
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